住戸の売買と相続(規約の効力・滞納管理費・売却時の情報提供)
持ち主が替わる形は二つあります。コメント第5条関係は、相続による引継ぎを「包括承継」、売買や交換による引継ぎを「特定承継」と呼び分けています。第5条第1項は、規約と総会の決議がどちらの承継人にも効力を持つと定めています。区分所有法第46条第1項が明記しているのは特定承継人だけですが、標準管理規約は相続人も条文に書き込んでいます。このため、買う前の総会で決まった管理費の改定や修繕工事の実施、使用細則のきまりは、新しい持ち主もそのまま受け継ぎます。組合員の資格が移る仕組み(第30条)と届出の様式(第31条)は「管理組合と組合員」の記事で扱っているので、ここでは引き継がれる中身を見ていきます。
住戸と切り離せないものから確かめます。区分所有法第15条は、共用部分の共有持分は専有部分の処分に従い、専有部分と分けて持分だけを処分することはできないと定めています。敷地の権利(敷地利用権)も、数人で持つ所有権などであれば、規約に別段の定めがない限り専有部分と分けて処分できません(同法第22条第1項)。標準管理規約第11条は、敷地や共用部分等の分割を請求できないこと(第1項)と、専有部分と敷地や共用部分等の共有持分とを分けて譲渡したり抵当権を設定したりしてはならないこと(第2項)を定めています。倉庫や車庫も専有部分になっているマンションでは、倉庫や車庫だけを他の区分所有者に譲る場合を除き、住戸と分けて処分しない旨を規定するとされています(コメント第11条関係②)。
反対に、住戸と一緒には移らないものもあります。標準管理規約第15条第3項では、区分所有者が住戸を譲ったり貸したりすると、その人の駐車場使用契約は効力を失います。買った人が前の持ち主と同じ区画を引き続き使えるとは限りません。ただし、別添4の管理情報提供様式の項目例には「駐車場権利承継可否」が入っており、駐車場を使う権利が住戸と一体で引き継がれるかどうかはマンションごとに違いうることがわかります。また、組合員は、納めた管理費等と使用料の返還や分割を求められません(第60条第7項)。売った人は、それまでに納めた修繕積立金についても返還を求められません。住戸を手放した後も続く義務もあり、共用部分の保険金等の請求について、元の持ち主は区分所有法第26条第2項の「別段の意思表示」をしてはならないとされています(第24条の2第4項・コメント③)。詳しくは「共用部分の管理と損害保険」の記事に譲ります。
前の持ち主が管理費等を滞納していたときは、売買の後も管理組合は請求できます。区分所有法第7条第1項は、規約や集会の決議に基づいて他の区分所有者に対して持つ債権について、管理組合側が債務者の区分所有権(共用部分の権利と敷地利用権を含みます)と建物に備え付けた動産に先取特権を持つと定めています。先取特権とは、ほかの債権者に先立って弁済を受けられる権利で、この先取特権は共益費用の先取特権とみなされます(同条第2項)。続く第8条は、この債権を債務者の特定承継人にも行使できるとしています。標準管理規約第26条も、管理費等の債権は特定承継人に対しても行えると定めています。相続人については、債務を引き継ぐのが当然なので書いていない、とコメント第26条関係は説明しています。滞納の督促や法的措置の段取りは「管理費と修繕積立金」と「ルール違反への対応」の記事で扱っています。
滞納があるかどうかは、買う側が売買の前に知りたい情報の一つです。標準管理規約第64条第3項は、組合員や利害関係人が理由を付けた書面で求めれば、管理組合の財務や管理の情報のうち必要なものだけを書いた書面を、費用を負担してもらって交付できるとしています。コメント第64条関係④は、住戸を売る組合員から頼まれた宅地建物取引業者が当面必要とする情報の様式例として別添4を示しています。項目には、売主が負担している管理費、修繕積立金、各種使用料の金額と、滞納があればその額、遅延損害金の有無と額が並びます。管理費等の変更予定も載せる項目で、「変更予定有」は値上げなどが総会で承認されているか、総会への上程が決まっている場合をいいます(コメント⑦)。修繕積立金の積立方式(均等積立方式か段階増額積立方式か)、長期修繕計画の有無、修繕工事の実施予定も項目に入っています。交付の範囲と費用は細則で定めておくことが望ましいとされています(コメント④)。
情報を出す相手を広げるかどうかは、マンションごとの判断になります。コメント第64条関係⑤は、管理の情報が外に開示されると、管理の良いマンションほど市場で評価されやすくなり、それを通じて管理の適正化が進むことが想定されるとして、住戸の購入予定者を交付の対象に含めることも考えられるとしています。一方で防犯上の懸念などもあるので、個別の事情を踏まえて検討する必要があるとしています。書面に書く金額や予定は、交付した時点の内容です。総会の議案が決まりかけている時期に交付するときは、別添4の「検討中」の区分を使って、決まっていることと検討中のことを分けて書くことができます。
相続では、住戸を何人かの相続人で共有する形になることがあります。区分所有法第40条は、専有部分が共有のときは、共有者が持分の価格の過半数で議決権を行使する人を一人定めなければならないとしています。標準管理規約第46条は、共有者をあわせて一人の組合員とみなし(第2項)、議決権を行使する人を1名選んで総会が始まるまでに理事長に届け出ることを求めています(第3項)。遺産分割の協議が長引いて届出が出ない間は、届出までの当面の連絡先として相続人の代表者などの連絡先を把握しておくことも考えられます(コメント第31条関係②)。届出がない組合員への総会の招集通知は、マンション内の専有部分の所在地あてに出し、掲示で代えることもできます(第43条第2項・第3項)。相続人が海外に住んでいる場合は国内管理人を選んで届け出る仕組みがあり(第31条の3)、規約で選任を義務づけることも考えられるとされています(同条関係コメント①)。
持ち主が替わったと知ったときに理事会が確かめることは、ここまでの条文から挙げられます。届出が出ているか、組合員名簿と居住者名簿を更新したか(第31条の2)、前の持ち主の滞納が残っていないか、駐車場使用契約の扱いをどうするか、共有なら議決権を行使する人の届出があるか、といった点です。新しい持ち主には、規約と使用細則のほか、直近の総会で決まった事項を伝えておくと、第5条で引き継がれる中身を本人が知らないまま過ごす事態を避けやすくなります。ここで挙げた条番号は標準管理規約のもので、駐車場の扱いや情報提供の範囲は各マンションの規約や細則で違うことがあります。自分のマンションの該当条を手元に置いて確かめてください。
- 規約と総会決議の効力:相続人(包括承継人)にも買った人(特定承継人)にも及ぶ(標準管理規約第5条第1項・コメント、区分所有法第46条第1項)
- 住戸と切り離せないもの:共用部分の持分と敷地利用権は専有部分と分けて処分できない(標準管理規約第11条・コメント②、区分所有法第15条・第22条第1項)
- 移らないもの:駐車場使用契約は譲渡や貸与で効力を失う。納めた管理費等は返還請求できない(標準管理規約第15条第3項、第60条第7項、別添4)
- 滞納の承継:管理費等の債権は特定承継人にも請求でき、区分所有権などに先取特権がある。相続人は当然に引き継ぐ(標準管理規約第26条・コメント、区分所有法第7条・第8条)
- 売却時の情報提供:必要な情報だけを書いた書面を費用負担で交付。別添4に滞納額や管理費等の変更予定などの項目例。購入予定者を対象に含めるかは個別に検討(標準管理規約第64条第3項・コメント④⑤⑦)
- 相続で共有になったとき:議決権を行使する1名を選んで届け出る。届出までは当面の連絡先を把握しておくことも考えられる(標準管理規約第46条第2項・第3項、コメント第31条関係②、区分所有法第40条)
出典:国土交通省 マンション標準管理規約(単棟型)及び同コメント(令和7年10月17日改正)/e-Gov法令検索 建物の区分所有等に関する法律(令和8年4月1日施行版)