長期修繕計画の作り方と見直し
標準管理規約第32条は、管理組合の業務の第三号に、長期修繕計画の作成または変更と、長期修繕計画書の管理を挙げています。コメントは、建物を長く良好に保つには一定の年数ごとに計画的な修繕が要るとし、修繕する部分、時期、費用をあらかじめ計画に定めて区分所有者の間で合意しておくことが、修繕を円滑に行うために重要だと説明しています。国土交通省の長期修繕計画作成ガイドライン(令和6年6月改定)も、計画を作る目的として、将来の工事の内容と時期と概算費用を明らかにすること、修繕積立金の額の根拠を示すこと、事前の合意で工事を進めやすくすることの三つを挙げています。管理費と修繕積立金の負担割合や取崩しの決まりは「管理費と修繕積立金」の記事で扱っています。
計画に最低限必要な内容は、コメント第32条関係②に三つ示されています。一つ目は、計画期間を30年以上とし、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とすることです。二つ目は、外壁補修、屋上防水、給排水管の取替え、窓や玄関扉などの開口部の改良といった工事を対象に挙げ、部位ごとに修繕周期と工事金額を定めることです。三つ目は、全体の工事金額を定めることです。ガイドラインは計画を、計画期間、推定修繕工事項目、修繕周期、推定修繕工事費、収支計画の五つで組み立て、そこから修繕積立金の額を出すとしています。推定修繕工事とは、計画期間の中で見込まれる修繕工事と改修工事のことです。収支計画では、推定修繕工事費の累計を修繕積立金の累計が下回らないようにします。
ガイドラインは、計画を作るときの前提も示しています。工事は建物と設備の性能を新築時と同じ水準に保ち、回復させることを基本とし、区分所有者の要望などに応じて性能を上げる改良工事も加えます。法定点検や日常の補修はきちんと行うことが前提で、工事をするかどうかは事前の調査・診断の結果で決めます。そのうえで、計画は将来の工事の内容、時期、費用を確定するものではないと断っています。工事の仕様は技術の進歩で変わることがあり、周期はおおよその目安で、収支には金利や物価、消費税率の変動といった不確かな要素が入るからです。なお、ガイドラインが主に想定しているのは、区分所有者が自ら住む住居専用の単棟型マンションで、団地型では内容を足して使うとされています。
計画の作成や変更の前には、建物の傷み具合を調べる劣化診断(建物診断)が要ります。コメント第32条関係③は、計画の作成・変更と修繕工事の前提として、管理組合として劣化診断を行う必要があるとしています。費用の出どころについて、同④は、計画づくりとそのための診断の経費は、管理組合の財産の状態などに応じて管理費からも修繕積立金からも出せるとしています。一方、修繕工事の前提として行う診断は工事の一環なので、原則として修繕積立金を取り崩して充てます。ガイドラインは、見直しでは専門家が設計図書や修繕の履歴の資料調査と現地調査を行い、必要なら区分所有者へのアンケートもして、劣化の状況と要望をつかむよう求めています。昭和56年5月31日以前に建築確認を受けた旧耐震基準のマンションでは、耐震診断を行い、その結果で耐震改修を検討することが必要だとしています。
作った計画は、そのままにしておけません。コメントは計画の内容を定期的に見直す必要があるとし、ガイドラインはその周期を5年程度ごととしています。見直す理由として、建物と設備の劣化の状況、社会環境や生活様式の変化、新しい材料や工法による修繕周期や単価の変化、運用益や金利、物価、工事費、消費税率の変動の四つが挙げられています。見直しにはおおむね1〜2年かかるため、見直しそのものも計画的に始める必要があります。計画を見直したら、修繕積立金の額もあわせて見直します。ガイドラインは、管理規約に5年程度ごとの見直しの規定を置くことも望ましいとしています。見直しは単独で行う場合と、大規模修繕工事の直前か直後に行う場合があります。
既存のマンションで見直すときの流れは、ガイドラインによると、理事会や専門委員会で検討し、専門家に依頼して計画と修繕積立金の額を見直し、総会で決議する、というものです。専門家とは、管理会社や建築士事務所など計画づくりを請け負う者を指します。依頼するときは発注仕様書を作って業務の範囲をはっきりさせ、受けた専門家は成果物を管理組合に説明します。規約の上では、計画の作成・変更の案は理事会が決議し(第54条第1項第三号)、作成・変更そのものは総会の決議事項です(第48条第五号)。第47条第3項・第4項の特別多数決議の事項には挙がっていないので、出席組合員の議決権の過半数で決める普通決議になります(第47条第2項)。ガイドラインは、総会の前に説明会を開いて内容を説明し、決議の後は議事録とあわせて計画を配るなど周知するよう求めています。
見直した計画の水準を確かめる材料として、国土交通省の修繕積立金ガイドライン(令和6年6月改定)が、366の計画事例から求めた額の目安を示しています。計画期間全体の平均で、専有面積1㎡あたりの月額です。地上20階未満では、建築延床面積5,000㎡未満が平均335円(事例の3分の2が収まる幅は235〜430円)、5,000〜10,000㎡が252円(170〜320円)、10,000〜20,000㎡が271円(200〜330円)、20,000㎡以上が255円(190〜325円)、地上20階以上は338円(240〜410円)です。機械式駐車場がある場合は別に加算します。ガイドラインは、目安の範囲に入らないからといって直ちに不適切とはいえないとしています。段階的に増額する積立方式では、初めの額を均等に積み立てる場合の0.6倍以上、最後の額を1.1倍以内とする考え方も示しています。
決議した計画は、記録として残し、見られるようにしておきます。第64条第2項により、理事長は長期修繕計画書を、設計図書、修繕等の履歴情報とともに保管し、組合員や利害関係人から理由を付けた書面などで請求があれば閲覧させます。利害関係人とは、担保権者や賃借人、売却の仲介を頼まれた宅地建物取引業者など、法律上の利害を持つ人です(コメント第49条関係①)。コメント第64条関係③は、理事長の責任で書類がきちんと保管されず作り直すことになった場合、理事長が費用を負担するなどの責任を負うとしています。コメント第48条関係は、毎年の総会で計画を資料に添付することも合意づくりに有効だとしています。
- 業務と内容:長期修繕計画の作成・変更と計画書の管理は管理組合の業務。計画期間は30年以上かつ大規模修繕2回以上を含み、部位ごとの周期と金額、全体の金額を定める(標準管理規約第32条第三号・コメント②、長期修繕計画作成ガイドライン)
- 劣化診断:計画の作成・変更の前提として劣化診断を行う。計画用の診断費は管理費・修繕積立金のどちらからも出せるが、工事前提の診断は原則修繕積立金から(コメント第32条関係③④)
- 見直し:5年程度ごとに調査・診断して見直し、修繕積立金の額もあわせて見直す。見直しにはおおむね1〜2年かかる(コメント第32条関係②、長期修繕計画作成ガイドライン)
- 決め方:案は理事会が決議し、作成・変更は総会の普通決議。総会前の説明会と決議後の配付で周知する(標準管理規約第54条第1項第三号・第48条第五号・第47条第2項、長期修繕計画作成ガイドライン)
- 積立金の目安:20階未満・延床5,000〜10,000㎡で平均252円/㎡・月(幅170〜320円)など。段階増額方式は初期額0.6倍以上・最終額1.1倍以内(修繕積立金ガイドライン)
- 保管と閲覧:理事長が計画書、設計図書、修繕履歴を保管し、組合員や利害関係人の請求で閲覧させる(標準管理規約第64条第2項・コメント)
出典:国土交通省 マンション標準管理規約(単棟型)・同コメント(令和7年10月17日改正)/国土交通省 長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン及び同コメント(令和6年6月改定)/国土交通省 マンションの修繕積立金に関するガイドライン(令和6年6月改定)/国土交通省 住宅:マンション管理(標準管理規約・各種ガイドラインの掲載ページ)