共用部分の管理と損害保険(保存行為・緊急時の対応・保険の付保)
区分所有法第18条第1項は、共用部分の管理を集会の決議で決めるとしたうえで、ただし書で「保存行為」は各共有者が一人でできるとしています。保存行為とは、壊れた箇所の小さな修理のように、今の状態を保つための行為のことです。同条第2項は規約で別の定めをすることを認めており、標準管理規約第21条はこれを使って、敷地と共用部分等の管理を管理組合の責任と負担で行うことにしています(コメント第21条関係①)。一方、管理者には共用部分等を保存する権利と義務があります(区分所有法第26条第1項)。標準管理規約では理事長が管理者です(第38条第2項)。区分所有者が自分で保存行為をするときの承認やバルコニーの負担の分け方は「専有部分と共用部分の範囲」の記事で扱ったので、ここでは理事長と管理組合の側から見ます。
第21条第6項は、災害等の緊急時に、理事長が総会や理事会の決議によらずに、敷地と共用部分等の必要な保存行為を行えると定めています。コメントは、これを理事長が単独で判断して実施できる規定と説明し、該当する行為として、共用部分等を維持するための緊急を要する行為と、損傷や滅失を防ぐための比較的軽度の行為を挙げています。後者の例は、給水管・排水管の補修、被災箇所の点検、破損箇所の小修繕です。そのための支出も、理事長が行えます(第58条第6項)。
保存行為を超える工事が要る場合は、理事会の出番です。第54条第1項第十五号は、災害等で総会を開くのが難しいときの応急的な修繕工事の実施等を、理事会の決議事項にしています。コメントによると、災害には地震、台風、集中豪雨、竜巻、落雷、豪雪、噴火などが入り、火災や爆発、物の落下も「等」に含まれます。総会の開催が難しいとは、避難や交通の途絶で組合員が出席しにくい状態のことです。応急的な修繕工事には、ライフラインの応急的な更新、エレベーター附属設備の更新、炭素繊維シートを巻いた柱の応急的な耐震補強などが例に挙がっています。この決議をしたときは、そのための資金の借入れと修繕積立金の取崩しも、本来は総会で決める事項ですが、理事会で決められます(第54条第2項)。
大きな災害では、理事会さえ開けないことがあります。コメント第21条関係⑩は、その場合に備えて、応急的な修繕まで理事長が単独で判断できると規約に書くことを考えられるとしています。理事長をはじめ役員が動けない事態に備え、あらかじめ決めた方法で選んだ区分所有者等が判断できるようにしておく案もあります。平時についても、専用使用権のない共用部分の保存行為を理事会の承認で理事長が行えるようにしたり、少額なら理事長に一任したりする定め方が示されています(同⑪)。どちらの場合も、理事長などが一人で使える費用の限度額を先に決めておくことが考えられるとされています。
共用部分の傷みの原因が住戸の中にあることもあります。第23条は、管理を行う者が、必要な範囲で専有部分や専用使用部分への立入りや保存行為の実施を求められると定めています。コメントが想定するのは、ある住戸の配管から漏れた水で共用部分に被害が出ているとき、その住戸に入り、持ち主に代わって漏水箇所を補修する場面です。理事長が自ら立ち入れる第4項の緊急の場合は、放置すると他の住戸や共用部分に重大な影響を与えるおそれがある大規模な水漏れなどに限られます。立ち入った人は、その箇所を速やかに元に戻さなければなりません(第5項)。コメントは、管理組合が各住戸の合い鍵を預かる定めも考えられるが、プライバシーの問題があるので個別の事情を踏まえて検討する、としています。
窓枠、窓ガラス、玄関扉(錠と内部塗装部分を除く)は共用部分として扱われます(コメント第22条関係①)。第22条第1項は、防犯、防音、断熱などの性能を上げる開口部の改良工事を、管理組合が計画修繕として行うとしています。ただ、防犯の必要や、結露によるカビ・ダニの問題のように、一部の住戸だけで急ぐ事情が生じることもあります。そこで第2項は、管理組合がすぐに工事できない場合に、理事長の承認を受けて、区分所有者が自分の責任と負担で工事できるとしています。工事の例は、複層ガラスやサッシへの交換、内窓や外窓の増設です(同⑥)。
損害保険について、第24条は、区分所有者が、管理組合が共用部分等に関して火災保険、地震保険その他の損害保険の契約を結ぶことを承認する、と定めています。区分所有法第18条第6項は、共用部分の損害保険契約を共用部分の管理に関する事項とみなしています。保険の業務は管理組合の業務の一つで(第32条第七号)、保険料は管理費から払います(第27条第五号)。また、別添4は、管理情報提供様式に記載のある項目例の一つに、共用部分に付保している損害保険の種類(マンション総合保険、地震保険など)を挙げています。自分のマンションがどの保険に入っているかは、保険証券で確かめておくとよいでしょう。
保険金の請求は、令和7年の改正で新しくできた第24条の2にまとめられました。理事長は、保険金と、共用部分等について生じた損害賠償金・不当利得の返還金(合わせて「保険金等」)の請求と受領について、区分所有者と、住戸を手放した元の区分所有者を代理します(第1項)。理事会の決議を経て、訴訟で原告や被告になることもできます(第2項)。請求と受領はこの方法でしか行えず、個々の区分所有者が別に請求することはできません(第3項)。区分所有法第26条第2項では、元の区分所有者は書面などで別段の意思表示をすれば代理から外れられますが、第4項は住戸を譲るときにその意思表示をしないことを求めています。受け取った保険金等は、原因になった瑕疵(欠陥や損傷)の修繕に充てます。修繕が済んでいる場合や残りが出た場合は、管理費の費目に充てる、修繕積立金に組み入れる、先に修繕費を負担した人への償還に充てる、のいずれかにできます(第5項)。コメントは、この定めが置かれる前に住戸を譲った元の区分所有者には規約の効力が及ばない、と注意しています。
- 管理の原則:敷地と共用部分等の管理は管理組合の責任と負担。区分所有法第18条第1項ただし書の保存行為に対する規約の別段の定め(標準管理規約第21条第1項・コメント①、区分所有法第18条第2項)
- 緊急時の保存行為:災害等のとき、理事長は総会・理事会の決議なしに必要な保存行為と支出ができる(第21条第6項、第58条第6項、区分所有法第26条第1項)
- 応急的な修繕工事:総会を開けないとき理事会が決議でき、借入れと修繕積立金の取崩しも理事会で決められる(第54条第1項第十五号・第2項)
- 立入り:漏水などで管理に必要なときは専有部分への立入りを求められ、重大な影響のおそれがある緊急時は理事長が立ち入れる。立ち入った箇所は原状に戻す(第23条)
- 開口部の改良:防犯・防音・断熱の改良は計画修繕が原則。すぐできないときは承認を受けて区分所有者が自己負担で実施(第22条)
- 損害保険と保険金:管理組合が火災保険・地震保険などを契約し、保険金等の請求・受領は理事長が一元的に行い修繕に充てる(第24条・第24条の2、区分所有法第18条第6項・第26条第2項)
出典:国土交通省 マンション標準管理規約(単棟型)・同コメント(令和7年10月17日改正。第21条〜第24条の2、第54条、第58条関係、別添4)/e-Gov法令検索 建物の区分所有等に関する法律(令和8年4月1日施行版)