専有部分のリフォームと理事長の承認
標準管理規約第17条は、区分所有者が自分の住戸で行う「修繕、模様替え又は建物に定着する物件の取付け若しくは取替え」(まとめて「修繕等」)のうち、共用部分や他の住戸に影響を与えるおそれのあるものについて、あらかじめ理事長に申請し、承認を受けることを求めています。承認の形は、電磁的方法を使わない管理組合向けの規定例では「書面」、使える管理組合向けの規定例では「書面又は電磁的方法」です。コメントは、承認が要る工事の例として、床のフローリング、ユニットバスの設置、主要構造部に直接取り付けるエアコンの設置、配管・配線の枝管・枝線の取付けや取替え、間取りの変更を挙げています。なお、専有部分の増築や建物の主要構造部に影響を及ぼす行為は、区分所有法第6条第1項により、承認があってもできないとされています。標準管理規約は国のひな形なので、自分のマンションの規約で承認の対象や書き方がどうなっているかは、規約原本で確かめてください。
申請するときは、設計図、仕様書、工程表を付けた申請書を理事長に出します(第17条第2項)。申請先は理事長ですが、承認するかしないかは理事会の決議で決めます(同条第3項、第54条第1項第五号)。コメントには申請書と承認書の様式が載っています。申請書の項目は、対象住戸、工事内容、工事期間、施工業者、添付書類(設計図・仕様書・工程表)です。承認書には「条件」を書く欄があり、条件付きで承認する使い方が想定されています。承認を受けた区分所有者は、承認の範囲内で、修繕等に伴う共用部分の工事も行えます(同条第4項)。コメントは、この仕組みを区分所有法第18条第2項にもとづいて共用部分の管理について規約で別の方法を定めたものと説明しています。ただし、工事の内容が共用部分の変更(区分所有法第17条第1項)に当たり、総会の決議が必要になる場合もある点に注意が要ります。理事会の運営そのものは「理事会の運営と議事録」の記事で扱います。
審査の考え方もコメントに書かれています。工事が躯体に与える影響、防火・防音への影響、耐力計算上の問題、他の住戸への影響を考えて判断します。専門的な判断が要る場合は、建築士や建築設備の専門家の意見を聴くなど、専門家の協力を得ることを考えます。特にフローリング工事は、構造や工事の仕様、材料で影響が変わるため、専門家への確認が必要とされています。判断のために調査などで特別な費用がかかる場合は、申請者に負担させるのが適当とされています。一方で、高経年化で専有部分の修繕等が増えることを踏まえ、過度な規制にならないようにすることも求めています。上下左右の住戸に著しい影響を与えるおそれがある工事では、その区分所有者の同意を条件にすることも考えられるとしています。また、近い将来に建替え等の検討が見込まれるマンションでは、高額なリフォームを申請してきた人に、その可能性を伝えておくことが望ましいとしています。工事をするかどうかは、あくまで本人の判断です。
承認が要る工事と要らない工事の線引きは、標準管理規約の別添2「区分所有者が行う工事に対する制限の考え方」が部位ごとの表で示しています。理事会承認が要る工事の例と承認の条件は次のとおりです。給排水管を改修する工事では、高圧洗浄用の掃除口があるか、排水勾配が取れているか、防音対策があるかを確かめます。床材を張り替える工事では、新築時と同等以上の遮音性能があるかを確かめます。大規模なリフォーム工事では、はつり等で躯体に悪影響を与えないかを確かめます。躯体コンクリートへの穿孔やアンカーボルトの打込み、バルコニーに物品を固定する工事なども承認の対象です。電気の契約量やガス給湯器の号数を一定以上に増やす工事は、共用設備の能力に応じて承認の対象にすることが考えられ、その基準の数値は表では「○」になっています。反対に、電球、水道のパッキン、シャワーヘッド、温水洗浄便座の取替えのように他の住戸への影響がない工事は、承認も届出も要らない例として挙がっています。
承認が要らない工事でも、届出が要るものがあります。第17条第7項は、工事業者の立入り、資機材の搬入、工事の騒音・振動・臭気など、工事をしている間の影響を管理組合が前もって知っておく必要がある工事について、事前に理事長へ届け出ることを求めています。コメントは、ここで問題にしているのは工事の途中の影響であり、工事の結果による後からの影響ではないと説明しています。別添2では、業者が出入りする工事は工事時間・工事内容・業者名を届け出ること、騒音や振動が出る工事は工事期間と内容を掲示することが示されています。届出があれば、たとえば給水工事でウォーターハンマー現象のような思わぬ影響が出たときに、どの住戸の工事が原因かを確かめやすくなります。
工事中については、理事長またはその指定を受けた人が、必要な範囲で工事箇所に立ち入って調査でき、区分所有者は正当な理由がなければ拒めません(第17条第5項)。コメントは、理事や管理組合が依頼した技術者が現場で立ち会うこと、それが難しければ抜き打ち検査を予告したり、工事業者に写真などの記録を出させたりする方法を挙げています。確認する点の例は、全面リフォームで壁や床をはがしたときに耐力壁を撤去していないか、躯体にスリーブを開けたりアンカーを打ったりする前に鉄筋を探査しているか、です。承認を受けた工事でも、後で共用部分や他の住戸に影響が出れば、工事を発注した区分所有者の責任と負担で対応します(同条第6項)。このため、工事業者との契約書に、後から影響が出た場合の責任と補償を書いておくこと、管理組合が工事完了報告書を出させて記録を残すことも考えられるとされています。承認を受けずに工事をした場合や、申請・届出と違う工事が見つかった場合、理事長は第67条にもとづいて勧告・指示・警告、差止めや原状回復のための措置をとれます。
手続きの細かい点や区分所有者が守る事項は、使用細則で別に定めることになっています(第17条コメント⑭)。コメントは、細則をつくるときに別添2を各マンションの実情に合わせて参考にし、必要に応じて専門家の意見を聴くことが望ましいとしています。別添2自身も、階下に伝わる騒音・振動や、窓の変更が外観に与える影響はマンションごとに違うため、設備の水準や劣化の状況に応じたルールを決めることが望ましいと書いています。細則に書き込む例として、新築時カーペット敷きで床スラブが薄い高経年マンションならフローリングの遮音等級の条件を示すこと、築浅で必要なスリーブがあるマンションならスリーブの増設を禁止することなどが挙がっています。ディスポーザー処理槽がない建物でのディスポーザー設置、バルコニーへの増築、主要構造部に影響する穿孔・切欠のように、区分所有法第6条第1項の「共同の利益に反する行為」として禁止する工事を具体的に書くことも想定されています。自分の規約・細則の見直しの進め方は「自分のマンションの規約を見直す手順」の記事で扱います。
- 承認の対象:共用部分や他の住戸に影響を与えるおそれのある修繕等は、事前に理事長へ申請し書面(または電磁的方法)で承認を受ける(第17条第1項)
- 申請書類:設計図・仕様書・工程表を添付。様式例の項目は対象住戸・工事内容・工事期間・施工業者(第17条第2項、コメント⑮)
- 決める機関:申請先は理事長、承認・不承認は理事会の決議(第17条第3項、第54条第1項第五号)
- 届出だけの工事:承認不要でも業者の立入りや騒音・振動などがある工事は事前に届出(第17条第7項、別添2)
- 立入りと事後の責任:理事長等は工事箇所に立ち入り調査できる。承認後に生じた影響は発注した区分所有者の責任と負担(第17条第5項・第6項)
- 細則:具体的な手続きは使用細則で定め、別添2を実情に合わせて参考にする(第17条コメント⑭)
出典:国土交通省 マンション標準管理規約(単棟型)・同コメント(令和7年10月17日改正。第17条関係・別添2)/e-Gov法令検索 建物の区分所有等に関する法律(令和8年4月1日施行版)