理事の利益相反取引と理事長の代表権の制限(第37条の2・第38条第6項・第53条第3項)
理事や監事は、管理組合の財産と意思決定を預かる立場にあります。その役員が自分や知り合いの得になるように組合と取引をすれば、組合に不利な条件で話が進むおそれがあります。標準管理規約(単棟型)の令和7年10月17日改正版には、この場面の歯止めが三つあります。役員に事実の開示と承認を求める第37条の2、特別の利害関係を持つ理事を議決から外す第53条第3項、理事長の代表権を外す第38条第6項です。コメントは、後の二つを第37条の2と同じ趣旨の規定として結びつけています(第37条の2関係)。
土台になるのは第37条第1項です。役員は、法令、規約、使用細則等と、総会・理事会の決議に従い、組合員のために誠実に職務を行うものとされています。コメントは、第37条の2について、役員はマンションの資産価値の保全に努め、組合の利益を犠牲にして自分や第三者の利益を図ってはならないと説明します。あわせて、外部の専門家が役員に就ける選択肢を設けたことで、このおそれのある取引への規制の必要性が高くなった、とも述べています。組合員だけが役員になる場合でも、条文の対象は役員全員(理事長・副理事長・会計担当理事・理事・監事、第35条第1項)です。
第37条の2は、二つの場面を挙げます。一つ目は、役員が自分または第三者のために、管理組合と取引をしようとするときです。二つ目は、管理組合が役員以外の者と取引をする場合で、その取引で組合と役員の利益が相反するときです。コメントは、前者を直接取引、後者を間接取引と呼んでいます。たとえば、役員本人が持つ部屋を組合が借りる、役員が代表を務める会社に工事を発注する、といった場面が前者の例になります(これは筆者の例で、規約に挙がっているものではありません)。後者は、相手方が役員以外の人でも、結果として役員が得をして組合が損をする形になる取引です。どちらの場面でも、役員は理事会で、その取引についての重要な事実を開示し、承認を受けなければなりません。
条文は何が重要な事実かを並べていません。判断するのは理事会ですから、他の理事が賛否を決められるだけの材料を出すことになります。たとえば、相手方と役員の関係、金額と条件、他の業者の見積もりとの比べ方などです。理事会の議事録には、議事の経過の要領と結果を記載することになっています(第53条第4項が準用する第49条第2項)。開示した内容と承認した結果を議事録に残しておけば、後から総会や監事に聞かれたときに説明できます。承認を取らずに進めた取引が直ちにどうなるかは、条文には書かれていません。
理事会での決め方を定めるのが第53条第3項です。理事会の決議(書面または電磁的方法による決議を含みます)について特別の利害関係を持つ理事は、議決に加わることができません。コメントは、この規定を第37条の2と同じ趣旨のものと位置づけています(第53条関係⑦)。つまり、取引の当事者になる理事は、自分の取引の承認に票を投じられません。ただし、どの範囲の人が特別の利害関係を持つ理事にあたるかは、条文に基準がありません。親族や、役員を兼ねる会社との関係をどう扱うかは、事案ごとに考えることになります。
理事長が当事者になる場合は、第38条第6項が働きます。管理組合と理事長の利益が相反する事項については、理事長は代表権を持たず、監事または理事長以外の理事が管理組合を代表します。理事長は管理組合を代表し、区分所有法上の管理者でもある(第38条第1項・第2項)ので、理事長自身が相手方になる契約では、組合の側に理事長が署名できないということです。コメントは、第38条第6項について第37条の2関係を見るよう指示しています(第38条関係④)。監事と理事のどちらが代表するかを選ぶ方法は、この項には書かれていません。民法第108条にも似た考え方があります。同じ法律行為で当事者双方の代理人になる行為や、代理人と本人の利益が相反する行為は、原則として代理権のない者の行為とみなされます。本人があらかじめ許した場合などは例外です。
監事の役割も、この仕組みに関わります。監事は理事の不正の行為やそのおそれを知ったとき、遅滞なく理事会に報告します(第41条第5項)。理事は、組合に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を見つけたら、直ちに監事に報告します(第40条第2項)。また、コメントは、軽微な変更や狭義の管理行為を理事会の決議事項にする場合に、理事の行為が自己契約や双方代理のように組合員全体の利益に反しないよう、監事による監視の強化などを考えるよう求めています(第54条関係③)。利益相反の取引を理事会が承認するときも、その承認の過程も、監事の監査の対象です(第41条第1項)。
標準管理規約はひな形ですから、お住まいのマンションの規約が同じ作りとは限りません。理事の立場で確かめたいのは、第37条の2や第38条第6項にあたる定めが規約にあるか、理事会の議事録にその取引の開示と承認が書いてあるか、の二点です。定めがない場合は、規約の追加が選択肢になります。規約の制定・変更は、組合員総数の過半数で議決権総数の過半数を持つ組合員が出席する総会で、出席組合員の4分の3以上の賛成が必要です(第47条第3項第一号)。取引の金額が大きい、利害関係の範囲が微妙といったときは、マンション管理士や弁護士など専門家の意見を聞いてから理事会にかけるのが無難です。
- 役員は組合員のため誠実に職務を行う。コメントは、組合の利益を犠牲にして自己や第三者の利益を図らないよう求める(第37条第1項・第37条の2関係)
- 役員が自己または第三者のために組合と取引するとき、または組合と役員の利益が相反する取引をするときは、理事会で重要な事実を開示して承認を受ける(第37条の2)
- 特別の利害関係を持つ理事は、その理事会決議の議決に加われない(第53条第3項)
- 理事長と組合の利益が相反する事項では、理事長は代表権を持たず、監事または理事長以外の理事が組合を代表する(第38条第6項)
- 理事会の議事録には議事の経過の要領と結果を記載する。監事は理事の不正行為やそのおそれを理事会に報告する(第53条第4項・第49条第2項・第41条第5項)
- 規約に定めがなければ、規約の制定・変更は特別決議(第47条第3項第一号)で行う
出典:国土交通省 マンション標準管理規約(単棟型)及び同コメント(令和7年10月17日改正)/e-Gov法令検索 民法(第108条)