管理費・修繕積立金の滞納への対応(督促・遅延損害金・先取特権・訴訟)
管理費や修繕積立金の滞納は、放っておくと管理組合の会計を圧迫し、ほかの区分所有者に負担が移ります。標準管理規約(単棟型、令和7年10月17日改正)のコメント第60条関係③は、滞納された管理費等の回収を、管理組合(理事長)の最も重要な職務の一つと位置づけています。第60条第3項も、納入しない組合員に対して督促を行うなど必要な措置を講ずるものとしています。措置は、督促、財産の調査、先取特権の実行か強制執行、最後に競売請求という順に重くなります。この順序は、同じ規約の別添3(滞納管理費等回収のためのフローチャート)がまとめているものです。以下、この順に条文を確かめます。
出発点は、何を期日までに納めるのかという点です。第60条第1項は、管理費等と使用料を、組合員が各自開設する預金口座から口座振替で管理組合の口座に入れる形にし、当月分は別に定める徴収日までに一括して徴収するとしています。徴収日を規約本体に書かず別に定めるのは、管理業者や金融機関を変えたときに納入期日を円滑に改められるようにするためです(コメント②)。この期日を過ぎても納入されない金額が、次に見る第2項の対象になります。
期日を過ぎた組合員に対して、第2項は三つのものを未払金額に加えて請求できるとしています。年利○%の遅延損害金、違約金としての弁護士費用等、督促と徴収にかかった諸費用です。利率は規約では「○」と空欄になっているので、各マンションが自分で決めます。コメント④は、管理費等の回収には手間や時間のコストが大きいことから、利息制限法や消費者契約法の遅延損害金の利率より高く設定することも考えられる、と述べています。弁護士費用等には司法書士費用が含まれ、督促と徴収の費用には、配達証明付きの内容証明郵便の実費と事務手数料、支払督促の申立てにかかる印紙代や切手代などが挙がっています(コメント⑤⑥)。第2項は「請求することができる」と書いていますが、コメント⑥は、請求しないことに合理的な事情がある場合を除き、請求すべきものと考えられるとしています。請求して入った遅延損害金や費用の分は、第27条の管理費の使いみちに充てます(第60条第6項)。
督促の進め方について、別添3は月ごとの例を挙げています。1か月目は電話と書面(未納のお知らせ)、2か月目は電話と請求書、3か月目は電話と催告書、4か月目は電話と書面に加えて自宅訪問、5か月目は内容証明郵便での督促です。例に添えられた注記には、うっかりなど一時的な理由で滞納した人は3か月以内に解消する実績があること、管理費を滞納する人はローンも滞納していることが多く、6か月以内に銀行が競売に動くことが多いことが書かれています。この月数はあくまで例ですので、各管理組合で手順を決めておくことになります。なお、納入された金額が全部の債務を消すのに足りないときは、理事会の決議で定める順序に従って充当できます(第60条第5項)。
督促で解決しないときは、法的措置に進みます。第60条第4項は、理事長が未納の管理費等と使用料の請求について、理事会の決議により、管理組合を代表して訴訟その他の法的措置を追行できるとしています。区分所有法第26条第4項は、管理者(理事長)が原告や被告になれるのは規約または集会の決議があるときと定めており、第60条第4項は、その規約上の根拠にあたります。措置を選ぶ前に、別添3は財産の調査を求めています。専有部分については抵当権などの設定の有無を調べ、預金や不動産については、本人の同意書を持って金融機関や課税当局(固定資産課税台帳)に当たり、登記の情報も確かめるという内容です。
回収の方法は二つあります。一つは区分所有法第7条の先取特権です。規約や集会の決議にもとづいて他の区分所有者に対して持つ債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利と敷地利用権を含みます)と建物に備え付けた動産の上に、先取特権(ほかの債権者より先に弁済を受けられる権利)を持つと定めています(同条第1項)。優先する順位と効力は、共益費用の先取特権とみなされます(同条第2項)。別添3によれば、この方法は判決などの債務名義がなくても担保不動産競売を申し立てられます。ただし、対象は専有部分などに限られ、公租公課や登記された抵当権などには劣後します。備え付けの動産の実行では全額を回収できない場合に限って区分所有権に実行できる、とも書かれています。抵当権の残額が大きく、競売の買受可能価額が優先する債権に届かないと、手続が取り消される場合があります(無剰余取消し)。もう一つは、確定判決などの債務名義を取ったうえでの強制執行です。対象が専有部分に限られず、預金なども差し押さえられますが、まず訴訟などで債務名義を得なければなりません(別添3)。
住戸の持ち主が替わった場合は、区分所有法第8条が、第7条第1項の債権を、債務者の特定承継人(売買などで区分所有権を引き継いだ人)にも行使できると定めています。標準管理規約第26条も同じです。ですから、競売で住戸を買った人にも、滞納分を請求できます。それでも全額を回収できないときの最後の手段が、区分所有法第59条の競売請求です。別添3は、先取特権の実行やほかの強制執行でも滞納管理費等を回収できない場合などに検討するとしています。この訴えには集会の決議が必要で、要件や決議の割合は「ルール違反への対応」の記事に書いてあります。関連して、売買時の滞納の扱いは「住戸の売買と相続」の記事、訴訟の当事者の問題は「管理組合の訴訟」の記事に書いてあります。
理事が確かめたいのは、自分のマンションの規約に、第60条第2項と第4項にあたる定めがあるか、利率が決まっているか、の二点です。規約が古いと、遅延損害金や弁護士費用の定めがなかったり、訴訟の権限が書かれていなかったりします。督促の手順と時期は、細則などで文書にしておくと、担当の理事が替わっても同じ対応を続けられます。個別の滞納が、どの段階の措置に当たるかは、弁護士などの専門家に相談して決めるのが確実です。
- 徴収と滞納:当月分は別に定める徴収日までに口座振替で一括徴収。期日を過ぎたら加算請求ができる。滞納者への督促など必要な措置を講ずる(標準管理規約第60条第1項・第2項・第3項)
- 加算できるもの:年利○%の遅延損害金、違約金としての弁護士費用等、督促・徴収の諸費用。利率は各マンションで決める。コメントは、請求しないことに合理的事情がある場合を除き請求すべきとする(第60条第2項・第6項、コメント第60条関係④⑤⑥)
- 督促の例:1か月目は電話と書面、3か月目に催告書、5か月目に内容証明郵便。月数は例であり、各組合で決める(別添3)
- 訴訟:理事長は理事会の決議により、未納の管理費等の請求に関する訴訟その他の法的措置を追行できる(第60条第4項、区分所有法第26条第4項)
- 先取特権:規約や集会の決議にもとづく債権は、区分所有権・敷地利用権・備え付け動産に先取特権があり、順位と効力は共益費用の先取特権とみなされる。ただし公租公課や登記された抵当権などに劣後する(区分所有法第7条第1項・第2項、別添3)
- 特定承継人:滞納分は売買などで引き継いだ人にも請求でき、全額を回収できないときの最後の手段が第59条の競売請求(標準管理規約第26条、区分所有法第8条・第59条、別添3)
出典:国土交通省 マンション標準管理規約(単棟型)及び同コメント(令和7年10月17日改正)/e-Gov法令検索 建物の区分所有等に関する法律(令和8年4月1日施行版)