修繕積立金の取り崩し・借入・一時金の徴収
修繕積立金は、使いみちが標準管理規約の第28条第1項で限られています。その六つの事由と、積み立てる理由は「管理費と修繕積立金」の記事に書いたので、この記事では、積立金を取り崩すとき、足りなくて借りるとき、さらに住戸ごとに一時金を集めるときに、規約がどんな決め方を想定しているかを見ていきます。この三つは別々の話に見えますが、規約の上では総会の決議事項(第48条)と修繕積立金の区分経理(第28条第4項)という同じ枠の中に収まっています。
取崩しの決議は、第48条第十号が定めています。総会の決議を経るのは、第28条第1項の特別の管理の実施と、それに充てるための資金の借入れ、そして修繕積立金の取崩しです。工事をするかどうかと、お金をどこから出すかを、同じ号で一緒に決める形です。第47条第3項・第4項の特別多数決議の事項に取崩しや借入れは挙がっていないので、これ自体は、議決権総数の過半数を持つ組合員が出席した総会で、出席組合員の議決権の過半数による普通決議になります(第47条第1項・第2項)。ただし、工事の中身が共用部分の形状や効用を著しく変える変更に当たるときは、その変更について第47条第3項第二号の特別決議(出席組合員とその議決権の各4分の3以上)が別に要ります。一定の場合には3分の2以上で足りる定めもあります(同条第4項第一号)。
どこまでが取崩しの対象かは、コメント第28条関係③④が補っています。計画修繕などの工事費には、実際の工事費のほか、計画立案、工事履歴の調査、設計といった準備段階の費用も含まれます。第1項第五号の「修繕積立金の管理及び運用」に当たる費用は、残高証明書などの発行手数料、住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」のような金融商品を使うときの保証料、取り崩して行った工事の印紙税や振込手数料などです。この費用は、取崩しの対象にせず管理費から支出することもできます。借入れを考えるときは、保証料のような周辺の費用がどちらの会計から出るのかも、あらかじめ決めておくと混乱しません。
マンションの再生に関する取崩しは、第28条第1項第四号と第2項に書かれています。第四号は、建替え、建物の更新、建物敷地売却、建物取壊し敷地売却、取壊しの合意形成に必要な事項の調査を対象にしています。第2項は、これらの決議や区分所有者全員の合意をしたあとでも、事業の認可を得るまでの間は、計画や設計等に必要があれば取り崩せるとしています。ただし、取壊し以外の事業の計画や設計等に充てる場合は、管理組合が消滅するときに事業へ参加しない区分所有者に帰属する分の相当額を除いた金額が限度です。この第2項による取崩しも総会の決議事項です(第48条第十五号)。コメント第28条関係⑨は、合意形成のための調査費を管理費から支出すると規約に定めることもできるとしています。
借入れについては、第63条が、第28条第1項に定める業務を行うため必要な範囲内で借入れをすることができると定めています。借りたお金は、修繕積立金で償還に充てられます(第28条第3項)。条文の文言からは、借入れの目的は特別の管理に限られ、毎月の管理費の不足を埋めるための借入れは、この条文の想定の外にあると読めます。第63条は借入れができることを定めるだけで、金額の上限や返済期間、担保などの条件は書いていません。借入れの決議は、先に見たとおり総会が行います。例外が一つあり、災害などで総会の開催が難しいときに、理事会が応急的な修繕工事の実施を決議した場合は、その工事の資金の借入れと修繕積立金の取崩しも理事会で決議できます(第54条第1項第十五号・第2項、コメント第54条関係②)。
積立金が足りないときの一時金について、規約は専用の条文を置いていません。手がかりは三つあります。一つ目は第61条第2項で、管理費等に不足を生じたときは、管理組合が組合員に、第25条第2項の負担割合によって、その都度必要な金額の負担を求められるとしています。二つ目は第60条第1項ただし書で、臨時に要する費用として特別に徴収する場合は、通常の口座振替とは別に定めるところによるとしています。三つ目はコメント第28条関係②で、修繕時に積立金が足りないために徴収される一時負担金も、修繕積立金として積み立てて区分経理すべきものとされています。集めた一時金は、取り崩せる事由が限られた修繕積立金の一部になる、ということです。額と納期をだれがどう決めるかは規約に書かれていないため、管理費等の額と賦課徴収方法が総会の決議事項であること(第48条第六号)を踏まえて、自分の規約と照らして確かめる必要があります。
国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)は、一時金や借入れを前提にした積立方式について、段階増額積立方式と並べて、将来の負担増を前提にしているため、増額しようとするときに区分所有者の合意ができず、積立金が不足する事例があると注意しています。そのうえで、安定した積立ての確保には均等積立方式が望ましいとしています。このガイドラインは、修繕工事のときに一括で徴収すると区分所有者の負担が大きく、合意形成が難しく、必要な工事ができなくなるおそれもあるので、計画的に積み立てるのが修繕積立金だと説明しています。一時金や借入れは、積立てで間に合わなかった部分を補う手段として位置づけられます。
お金の動きは、総会や売買のときに見える形にしておくと、あとの合意がとりやすくなります。コメント第48条関係は、毎年の総会で、長期修繕計画上の積立予定額と現時点の積立額の差を示す資料を出し、段階増額積立方式なら今後の変更予定時期と額を説明することが、合意形成に有効だとしています。住戸の売買では、管理情報提供様式の項目例(別添4)に、売主が負担する管理費等として「修繕一時金」、収支の状況として借入金残高、変更予定の有無として修繕一時金、積立方式の別(均等か段階増額か)が並んでいます。「変更予定有」は、値上げ等が総会で承認されている場合か、総会に上程されることが決まっている場合をいいます(コメント第64条関係⑦)。自分のマンションの規約では、取崩しの事由、借入れの条文の有無、決議の要件、一時金の定めがどう書かれているかを、この順に確かめてください。各マンションの規約は標準管理規約と違うことがあります。
- 取崩しの決議:第28条第1項の特別の管理の実施、借入れ、取崩しは総会の決議事項で、これ自体は普通決議(標準管理規約第48条第十号、第47条第1項・第2項)
- 取崩しの対象:準備段階の費用も含む。管理・運用の費用は管理費から出すこともできる(第28条第1項、コメント第28条関係③④)
- 再生等に向けた取崩し:決議・合意のあとも認可までは計画・設計等のために取り崩せる。取壊し以外は、事業に参加しない人に帰属する分を除く(第28条第1項第四号・第2項、第48条第十五号)
- 借入れ:第28条第1項の業務に必要な範囲で可能。償還には修繕積立金を充てられる。災害時の応急工事は理事会が借入れと取崩しも決議できる(第63条、第28条第3項、第54条第1項第十五号・第2項)
- 一時金:専用の条文はなく、一時負担金は修繕積立金として積み立てて区分経理する。不足時は負担割合で負担を求められる(第61条第2項、第60条第1項ただし書、コメント第28条関係②)
- 見える化:毎年の総会で積立予定額との差を説明。売買時の情報提供に修繕一時金・借入金残高・積立方式が入る(コメント第48条関係、別添4、修繕積立金ガイドライン)
出典:国土交通省 マンション標準管理規約(単棟型)及び同コメント(令和7年10月17日改正)/国土交通省 マンションの修繕積立金に関するガイドライン(令和6年6月改定)